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突然ですがまた創作童話です。 「バンビとお守り」

   創作童話 「バンビとお守り」

 そのじいちゃんは静かに病室に入って来ました。家族らしい女性に手を引かれてスタスタと歩いて来たのです。早速看護師さんは入院についての説明を始めましたがそれに答えるのは女性だけでじいちゃん本人は何もしゃべらないのです。「それじゃ帰るからね。いいね、分かった!」とその女性はベッドにちょこんと正座しているじいちゃんにかなり大きめの声をかけたのですが、じいちゃんはただうなずいただけで無言でした。そして「お願いします」と同室の人たちに小さく言うと深くおじぎをしてまた静かに病室を出て行ったのです。一人ぼっちになってしまったじいちゃんは正座したままで辺りをそろそろと見回しています。外はすでに夕暮れです。しばらくするとじいちゃんは疲れたのかゆっくりとベッドに横になり目を閉じました。こんな様子をよっちゃんは隣りのベッドからずっと見ていました。よっちゃんは小学一年生。ぜんそくの病気で時々体調を崩します。つい一週間前また具合が悪くなって入院したばかりでした。この前まではお母さんが付き添っていてくれましたがもう一年生になったので一人での入院でした。「じいちゃん寂しそうだなあ」とよっちゃんは思ったのです。やがて夜の検温が始まりました。看護師さんは手際よく体温計をみんなに渡しています。よっちゃんの検温結果を聞いた後、看護師さんは隣りのじいちゃんのベッドに行き「おじいちゃん、何度だった?」と尋ねたのです。しかしじいちゃんは何も答えず天井をじっと見つめているのです。すると看護師さんは何かを思い出したようで突然大きな声で「おじいちゃん!、熱はどうだった?」ともう一度尋ねたのです。そうなんです、じいちゃんは耳が遠いのです。しかもかなり遠いようでそれは看護師さんの荒々しい息遣いですぐ分かりました。じいちゃんは85歳。検査をするため入院したのです。耳はかなり遠いのですが目も歯もしっかりしていて今まで病気というものにはまったく縁がなかったのです。娘さんに連れられて病院に来たのも初めてで、ましてや入院なんてとんでもないといった感じだったのです。
 やがて消灯となりみんなはそれぞれのベッドに入り眠り始めました。よっちゃんも看護師さんにお休みを言うと目を閉じました。チラッと隣りのベッドを見たら、じいちゃんはしっかりと目を閉じて静かに息をしています。その顔は小さくてバンビみたいでした。二十分ほど経った頃でしょうか、向い側のベッドに居る大工の健さんが「なんじゃこの音は」とベッドから起き上がりました。隣りで寝ていたみかん農家の良さんも「そうだろう、さっきから気になって眠れないんだよ」と起き上がりました。何かブツブツという音が聞こえるのです。健さんはベッドから降りるとその音のする方へそっと近寄りました。そして「なんだこりゃ、お経だよ!」、健さんはじいちゃんの顔を覗き込むとあきれたような声で言いました。じいちゃんは堅く目を閉じてお経を唱えていたのです。「病院でお経はまずいよねえ」と良さんも溜め息混じりでそっと言いました。「じいちゃん!、お経は止めてくれないかなあ、みんな眠れないんだよ」と健さんはちょっと周りに気遣ったのかやや小さく言いました。しかしじいちゃんは止めるどころか益々お経は大きくなるばかりです。よっちゃんもこの騒ぎで起きてしまいました。「仕方ない、これは看護師さんだよね」と良さんは渋々ナースコールしたのです。急いでやって来た看護師さんは健さんから話を聞くと「おじいちゃん!、みんな寝ているから静かにしてちょうだい、ねえお願いだから、ねっ」と耳元で叫んだのです。じいちゃんはやっと聞こえた様子で目を開けコックリと大きくうなずきました。「じいちゃん、これ食ってくれよ。俺が作ったんだ。うまいよ」と良さんはみかんを三つじいちゃんの手のひらに乗せたのです。みんなはとりあえずホッとしてやがてまた眠り始めました。しかししかし、しばらくするとまたお経が始まってしまったのです。今度はかなり大きめです。目を覚ましたよっちゃんは思いついたように何かを始めました。そしてベッドから降りるとブツブツ言っているじいちゃんのまくらもとに行ってシワシワの手にちっちゃい紙切れを持たせたのです。「これお守りだよ。大丈夫だからね。もう怖くないよ」。よっちゃんは紙を細長く切って「おまもり」と鉛筆でかわいく書いていたのです。目を開けたじいちゃんは紙を見るとそれからよっちゃんをじっと見つめました。じいちゃんの顔は目がパチクリしていてやはりバンビでした。すると突然じいちゃんはその顔に似合わないようなとても野太い声で一言こう言ったのです、「ありがとう」。
 それから…、病室はまたいつもの静かな夜となりました。
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